――忘れていた。
「なにを忘れていたの?」
 なにを、だって?
 そんな事を、君は問うのか?
 ……そうだね、少し話そうか。僕もそんな気分だし。

 ――あの頃、僕は毒を飲んだ。
 何よりも甘美で、だけど決して癒える事のない毒を。
 それは、僕のトラウマで、今の僕を形作るもので、今なお僕を責め苛み、僕を変質させている。

 まだ七歳か八歳――小学二年生の時だ。僕はそれに出会った。否、出会わされた。
 僕は画面に映るそれを、繰り返し、繰り返し見ながら、徐々に蝕まれていった。
 それから十年――そう、十年だ。
 それは、帰って来た。


『――エヴァンゲリオン新劇場版・序』